その一瞬に、すべてを。
なぜその場所で、その瞬間にシャッターを切ったのか、自分でもうまく説明できないことが多い。ただ、何かが噛み合った、という感覚だけがある。理屈より先に、指が動く。
写っているのは、たぶん今この場所の姿ではない。ここに辿り着くまでにあった時間、まだ訪れていない時間。うまく言葉にならない感情のようなものを、その場所や光に預けている。写真は、私の代わりにそれを語ってくれる。
風景が変わっていくこと、消えていくことを、私は惜しいとは思わない。むしろ、そこに何かが在ったという事実を、静かに刻んでおくための行為なのだと感じている。
だから、被写体が何であるかは、あまり重要ではない。説明してしまえば、そこで終わってしまう気がする。名前のつかないまま、余白として置いておきたい。
もしこの写真の前で、見た人が自分でも忘れていた記憶をふと思い出すようなことがあれば、それで十分だと思っている。写真が、そのための小さなきっかけになれば。
Takahashi Hiroto
Photographer